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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)72号 判決 1967年7月11日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、次に記載する外原判決摘示のとおりであるからこれを引用する(たゞし原判決四枚目表九行目六〇〇、〇〇〇円とあるを六〇、〇〇〇円と五枚目表二行目動物類とあるを動産類と、同六行目一、一〇〇円とあるを一、一〇〇、〇〇〇円と、同一〇行目熟れにしてもとあるを何れにしてもと各訂正する)。

証拠関係(省略)

理由

原判決別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)がもと訴外竹盛とよの所有であつたこと、右不動産について被控訴人に対し、昭和三〇年一二月一六日売買予約を原因とする昭和三二年二月一八日受付の所有権移転請求権保全仮登記がされており、右登記に基づいて被控訴人に対し昭和三二年九月一日付売買を原因とする昭和三四年五月二七日受付の所有権移転登記がされていること、以上の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

そして成立に争いのない第二号証、同第三号証の一、二、同第五、六号証の各一ないし四、同第九号証の一、二と、原審における証人瀬戸政治郎の証言および被控訴人本人尋問の結果によると、次のような事実を認めることができる。被控訴人は昭和三〇年一二月一六日訴外竹盛憲次郎および同とよに対し、両名を連帯債務者として金一四〇万円を利息月六分で貸し付けることを約し、竹盛らが右貸金債務を返済期に弁済しないときは、竹盛とよは本件不動産の所有権を被控訴人に譲渡する旨の売買予約をし、その旨の所有権移転請求権保全仮登記をしたこと、被控訴人は竹盛両名に対し、同日金四〇万円を、ついで昭和三一年四月四日に金四〇万円、昭和三二年三月一四日に金五〇万円、昭和三二年三月二七日に金一〇万円を貸し付け、その元利合計が金一四〇万円に達していたこと、ところが竹盛両名は被控訴人に対し右債務の支払いをせず弁済期を延期するよう求めるので、被控訴人が京都簡易裁判所に即決和解の申立てをした結果、昭和三二年五月一八日竹盛両名と被控訴人の間に和解が成立したこと、右和解により、竹盛両名は、被控訴人から連帯して借り受けた金一四〇万円を昭和三二年八月三一日限り支払うこととし、右期日に支払いがなければ、被控訴人はとよの債務金額で本件不動産を買い受けることができるものとし、被控訴人が昭和三二年二月一八日受付の前記所有権移転請求権保全仮登記に基づき本登記をするも異議はない旨を約したこと、竹盛両名は右返済期後も右債務を弁済しなかつたので、被控訴人は昭和三三年八月六日到達の内容証明を以つて竹盛とよに対し、右売買予約完結の意思表示をしたこと、以上のとおり認めることができる。

この点について当審証人竹盛とよ、同竹盛憲次郎(第二回)の証言のうちには、竹盛とよは右借入れおよび和解契約に関与していないものであるという部分がある。また証人竹盛憲次郎の証言(原審および当審第一回)には、和解当時右債務は七四万円にすぎなかつたとか、六〇万円しか残つていなかつたという部分があり、乙第三号証によれば竹盛両名の借入金は逐次弁済し、元金残は昭和三二年二月一六日現在で四五万四九三二円である旨記載されている。しかし右各証拠は前記認定の用に供した各証拠に照らし信用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

ところで控訴人らは、右和解が公序良俗に反し無効であると主張し、その理由の一として本件不動産の価格が和解当時金六〇〇万円以上であつたというのである。そして原審証人竹盛憲次郎の証言により成立を認める乙第一号証には本件不動産の時価を五七九万九、六〇〇円と鑑定した旨の記載があるが、右調査報告書の作成日から考えて右は昭和三五年五月当時の時価と解すべきものであり、右金額をもつて和解当時の時価とみることはできない。また原審証人竹盛憲次郎の証言のうちには前記和解当時の時価が六〇〇万円以上であつたという部分があるが、原審証人瀬戸政治郎の証言に照らし信用することができず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。しかも被控訴人が竹盛とよの無知、窮迫、軽率に乗じ本件和解を成立させたというような事実を認めるに足る証拠はないのであるから、右和解が公序良俗に反するという控訴人らの主張は採用することができない。

次に控訴人らは、昭和三三年三月頃竹盛憲次郎が被控訴人に対し軸物三二点をもつて本件貸金債務のうち金三〇万円の代物弁済としたから、残債務は金一一〇万円にすぎず、被控訴人はもはや前記売買予約の完結をすることができなくなつたものであると主張する。しかし前記和解は控訴人らのいうように、残債務が一四〇万円なければ売買予約の完結をすることができない趣旨のものと解することはできない。そればかりでなく右代物弁済の事実については、これに副う原審証人竹盛憲次郎の証言は、原審における証人瀬戸政治郎の証言および被控訴人本人尋問の結果に照らして信用することができず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。かえつて原審における証人瀬戸政治郎の証言および被控訴人本人尋問の結果によると、竹盛両名は被控訴人に対し、本件和解による債務とは別に金七万円の手形債務を負担しており、その債務の支払いに代え右軸物を被控訴人に引き渡したものであると認めるのが相当である。

以上のとおりであつて被控訴人は、前記売買予約完結の意思表示により竹盛とよから本件不動産の所有権を取得したものであるから、とよから被控訴人に対する前記所有権移転登記は有効なものというべきである。もつとも右登記は昭和三二年九月一日付売買を原因としてされているが、被控訴人が売買予約完結の意思表示をしたのは昭和三三年八月六日であつて、両者に多少の相違があるけれども、そのことは右登記の無効を来たす程のものでないことは勿論である。

ところで本件不動産について控訴人らが、被控訴人主張のような各登記を有することは当事者間に争いがない。そして右各登記は被控訴人の前記仮登記後にされたものであるから、右仮登記に基づいて本登記がされた以上、これと牴触する控訴人らの前記各登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当である。したがつて原判決は相当であるから本件控訴を棄却し、控訴費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

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